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たかぶろ短編小説 初秋モノクローム ~天龍引退に寄せて~ 

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たかぶろ短編小説
初秋モノクローム~天龍引退に寄せて~



「福井にプロレス観に行ってもいいかな?」

高校三年の九月、ボクは母親にそう相談をした。

行ってもいいか…などと本当は母親に聞くまでもなかった。
ボクの中では母親に反対されようがされまいが、何が何でも、いや、意地でも福井に行くとすでに自分の心の中で決めていたからだ。

…1990年初秋。
北陸、富山。
そびえ立つ立山連峰が富山県全体をまるで城壁のように覆い囲む。

高校三年のボクの進路はこれといってまだ何一つ決まっていなかった。
そんなボクを母親は常日頃、心配していた。

「なんでわざわざ福井までプロレスなんか観に行くがけ?」

全日本プロレスを離脱した天龍源一郎の新しい団体、SWSのプレ旗揚げ興行が天龍の地元、福井であるからだ。

「どうしても福井の天龍の試合を観に行きたいんだ。」

福井は富山と同じ北陸ではあるが、両県との間には石川がある為、富山県民には福井は〝遠い県〟というイメージが強い。

母親はボクがプロレス好きだという事は充分に知っていた。

当時、富山市内の街外れで母親が営んでいた喫茶店の常連客である、富山でのプロレス興行のプロモーターから余ったチケットを母親が貰い、そのチケットでボクはプロレスを観に行っていた事があった。

1986年。
ボクが中学二年の頃、ついに天龍は全日本プロレスに〝革命〟を起こす。

80年代、全日本プロレスは鶴田、天龍を筆頭に、長州力率いるジャパンプロレス勢との抗争が売りであった。

新日本プロレスでアニマル浜口、谷津らと『維新軍団』を結成し、プロレス黄金時代を築いた長州は、戦場を全日本に移し、長州効果のおかげで全日本は絶好調だった。

だが、長州は鶴田、天龍との抗争も半ばに古巣・新日本にUターンを謀る。

そのため〝残された〟鶴田、天龍は迷走。当然、客入りも悪くなり、全日本プロレスの会場には〝閑古鳥〟が鳴き始めていた。

そのうち、マスコミやファンの間では「もう全日本は終わった。」などと口々に言いはじめる。

いつもエースである鶴田の陰に隠れ、全日本の〝第二の男〟という存在からなかなか抜けられないでいた天龍は、リング上で心を剥き出しにし始める。

「俺は一体何なんだ?」

明らかに天龍のファイトスタイルに気持ちが出始めてる。

無気力。

どこ行ってもガラガラの会場。
先の見えないテーマ無き闘い。

そんな状況に天龍は次第に不機嫌になっていった。
だが、そんなやり場の無い〝男の背中 〟を肌で直接感じ取っていたある一人のレスラーがいた。

「源ちゃん、一緒にやろう。やるなら今しかない。」

当時、一匹狼として全日本に上がっていた〝ヒットマン〟阿修羅・原だ。

天龍は阿修羅・原と〝天龍同盟〟を結成(のちに川田利明、サムソン冬木、小川良成も加入)。
そして鶴田、輪島ら〝全日本本隊〟に牙を剥いたのだ。
ファイトスタイルも以前とはうって変わり〝過激なプロレス〟を展開していった。

天龍は以前からあった『新日本こそ本物』、そして『全日本、第二の男』を払拭したかった。

それだけではない。
全日本の現状、危機感に反応しない鶴田らに『目を覚ませ』といわんばかりに、所謂〝痛みの伝わるプロレス〟を展開していった。

巡業中も全日本本隊らとは一切行動はせず、別々に移動するなどの徹底ぶりだった。

天龍らが持ち込んだ〝過激なプロレス〟、そして鶴田ら全日本本隊と天龍同盟との抗争は大ヒット。
全日本から離れていったファンも再び注目し、いや、さらに拡大し連日会場も超満員。
ライバル団体、新日本を凌駕するほどにまでなった。

いつの日か彼の事をこう呼ぶようになった。

〝革命家・天龍源一郎〟

天龍革命真っ只中、高校生になったボクは天龍に夢中になった。
寝ても覚めてもボクの頭の中はとにかく天龍源一郎一色。

尊敬する人は?と聞かれれば
迷わず「天龍源一郎!」と即答していた。
だがプロレスに精通していない人からは
「は?」
という顔をされた。
ボクにはそんな事は御構い無しだった。

天龍源一郎。

彼はボクにとってそれは唯一の、かけがえのない青春そのものだった。

そんなボクだが高校二年のある日、心に〝茨〟を持ってしまう。

『対人恐怖症』

それは突如として発症したのだ。

人と目が合わせられない。
人の目が怖くて、目が合うと目の前が瞬時にフラッシュを焚かれたように真っ白になり、そしてパニックなる。
それが一日に何度もだ。
それに加えていつも顔がうっすら赤く、言葉も吃りがちで、常に微熱がある感じだった。

発症の原因はわからない。

とにかく毎日の生活が〝地獄〟だった。

「死にたい。」

ボクはこの先の人生、この〝地獄〟が何年も続くかと思うと死んだ方がマシだと次第に思うようになっていった。

「オレの人生、このまま一生、〝地獄〟なんだろうか?」

まさに生き地獄。

人の目が怖い。
人の視線が怖い。

ただ、人の目というより、人の〝心〟が怖かった。
今考えるとそんな気がする。

人の目を見ると、その人の心の内が見えてしまう。
そこにボクは恐怖を感じていた。

こんな事ならいっそう目が見えなくなればいいのにと思っていると、抜群の視力だった2.0から0.3ぐらいにまで一気に下がってしまい、眼鏡をかけるようにまでになった。

そして当時のボクの写真を見ると全ての表情が引きつっている。
もっと言えば目が釣りあがって顔が完全に変形しているのだ。

何十年にも渡るボクの写真嫌いはここからきている。

ボクの心はだんだんと闇色に染まっていく。

外出もせず、ボクは自分の部屋に籠もりがちにもなった。

そして、自分がこの世に生まれてしまった事を〝罪〟にまで思うようになっていく。

自分がこの世に生きている事に対する罪悪感。

〝生きてて本当にごめんなさい。
ボクは決して生まれてはいけなかったのです。
ーーー許してください。〟

ただひたすら堕ちていくだけの自分。
鏡に写る自身の姿さえも直視できない自分。

ーーーキモチワルイ。

こうして容赦なく照りつける太陽を恨み、そして闇へ闇へとボクの心は逃走し始める。

だが、そんな〝茨〟を抱きながらもボクはビデオテープに録り溜めていた天龍の試合を何度も何度も繰り返し繰り返し、テープが擦り切れるほど見返していた。

天龍の試合を見ている時だけが〝生き地獄〟に生かされているボクの唯一の救いだった。

もしかしたらボクは自身の姿を、天龍に照らし合わせていたのかもしれない。

〝俺は一体何なんだ〟

そして

〝死にたいと願っていても、まだ生きていたいと願う自分もいる〟

ーーー〝天龍効果〟で絶好調だった全日本だが、全日本本隊と天龍同盟の抗争は次第にマンネリになっていった。
いや、正確には天龍自身が違った新しい刺激を求め始めていたのかもしれない。

そんな矢先、
1990年4月横浜文化体育館。
当時、全日本に於ける黄金カード。
ジャンボ鶴田対天龍源一郎。
俗に言う〝鶴龍対決〟だ。
バックドロップホールドで敗れた天龍はこの一戦を最後に全日本に見切りをつける。

そして
〝天龍、全日本退団〟

日本プロレス史に燦然と輝いた、約四年間に渡る〝天龍革命〟はこうして幕を降ろす。

それはボクが高校三年の四月だ。
ちょうど満開な桜の花びらが風で舞い散る頃。

〝ボクはこの桜の花びらにさえもなれない。〟

茨を持つボクが着ている黒い学生服に降りかかる綺麗な桜の花びらは、ただただ…不快にしか思えなかった。

〝地獄の季節だ。〟



ーーーなぜイキタイの?



時は同じく1990年。
…それは『黒船』と呼ばれた。

豊富な資金源を武器にメガネスーパーがプロレス界に殴り込みをかけてきたのだ。
新日本プロレス、全日本プロレスから選手たちを引き抜き、全日本を退団した天龍源一郎を筆頭にプロレス団体旗揚げを発表。

その名も『SWS(スーパー・ワールド・スポーツ)』。

10月の横浜アリーナでの本格旗揚げ興行の前に、9月に天龍の地元・福井に於いてプレ旗揚げ興行『越前闘会始』を行うと発表した。

ボクは全日本プロレスを退団した天龍の試合に飢えていた。

「プロレスは最大の罪だ…9月、福井市体育館。そして天龍。決めた…福井に密航だ。」


ーーープロレスという名の罪に気づいたボクは茨と共に生き、そしてこの先の人生、プロレスと共犯関係になる事に決めた。


〝もう一度探し出したぞ。
ーーー何を?ーーー永遠を。
それは、太陽と番った海だ。〟


富山から福井行きの特急に乗り、福井への密航に成功した。
不思議にもこのときばかりはパニックは発症しなかった。


ーーー都会には太陽の聖地がある。
プロレスと共犯するにはこれしかないーーー



そして先日、

『2015年11月。
両国国技館。天龍源一郎、引退』


が発表された。



….1991年の冬。
北陸富山は辺り一面の雪景色。
シンシンと雪の降る音色だけが聴こえてくる、そんな静まり返ったある日の夜。

ボクは母親にこう告げた。

「オレ、東京に行きたいんだ。」

(完)



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Posted on 2015/02/20 Fri. 21:28 [edit]

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